No Use For A Nameのボーカル、トニー・スライの死からもう7年の時間が経過しました。彼の死因は未だに公表されてませんが、別に知りたいとも思いません。
彼の残した音楽に今までどおり敬意を表す。それでいいと思っています。
彼の歌詞から引用するならば、
“Every day is passing quickly like a bullet train”
「毎日が弾丸列車のように過ぎていく」
まさにそのとおりで、恐ろしいスピードで毎日が過ぎていきます。
彼がいなくなった今もそれは変わりません。
晩年の彼はアコースティック音楽に傾倒していました。長年パンクロックを演奏し続けていた彼の新しい表現としてアコースティックアルバムを発表したのが、2010年。
No Useとしてアルバムをリリースするたびに歌が柔らかくなっていったトニー。
パンクロックバンドのフロントマンとしての顔とは別の顔、もっと踏み込めばパンクバンドという仮面を脱ぎ捨てた素のトニースライ。バンドではできないであろう繊細な12曲が詰まっています。
どこを切り取ってもトニーが書いた曲なのですが、No Useとは違う柔らかい曲が多いです。メロディーの良さはバンドであってもアコースティックであっても全く変わりません。
このアルバムを聴いて、彼がパンクロッカーだと思う人は世界に1人もいないでしょう。
パンクロック専門のインディーレーベル(Fat Wreck Chords)から発売されている至高のアコースティックアルバム。元々のファン以外には届かないという意味で、売れるはずがありません。
No Useとして所属していた同レーベルからリリースするしか手段はなかったと思います。だから我々のようなパンクにもアコースティックにも理解がある人間が広めるしかないのです。
当時パンクロックを志向する若者にはあまりこのアルバムは受け入れられませんでした。
「やっぱNo Useじゃなきゃダメだよ」
「こんなのパンクじゃない」
パンクじゃないのは当たり前なんですけど、若者は視野が狭いし、刺激的な音楽を求めるもの。20年前の自分だったらこのアルバムを受け入れられたかどうかわかりません。
発売当初、若者だった子たちも当然歳を重ねているはずです。発売から8年が経過している今、あの頃一度拒否してしまった彼らにこそ聞いてほしい。
どうですか?
いいメロディーを書いているでしょ?
パンクであってもアコースティックであっても根本は同じ。
メロディーという核がしっかりしているかどうか、大切なのはそこだけ。
それを感じ取ってほしい。僕たちはそこに惚れていたのですから。
若い頃は誰しもとんがっていますが、歳を重ねると柔らかくなってくる。
彼の生き方や音楽の変化からそれを感じます。
パンクでなくても、トニースライはカッコ良い。
最高にいい曲を量産している。
このアルバムを聞くとやはり只者ではなかったなと痛感します。
これからの季節にぴったりの大人なアルバム。
キャッチーな曲はない代わりに渋い歌が多く、アルバムの雰囲気は抜群です。
聞き込めば聴きこむほど味の出て来る作品です。
ぜひ30代~40代のロック好きだったおじさんたちや元パンクロッカーに聞いてほしいです。もちろん現役のパンクロッカーもどうぞ。
個人的にオススメな曲は
・Capo, 4th Fret
・AM
・Fireball
11月4日はトニーの誕生日。
生きていれば49歳。誕生日おめでとう。